

滋賀県 高島市
菜の花米 盛盛
私たちのびわ湖を出来るだけ汚さない様に、滋賀県高島市で農薬を使わず又は初期の除草剤だけにとどめ、殺虫剤、殺菌剤は不使用で環境に配慮した持続可能な稲作の取り組みをしています。
私の農薬を使わない取り組みは、亡き父の後を継いで稲作を始めて2年目の2011年に始まります。
しかし、その時はまだ田んぼの土が無農薬を受け入れてくれる状態ではありませんでした。田んぼに養分が少なく、それでも育つ生命力の強い雑草が生い茂り、稲がほとんど育たなかったのです。
除草には失敗しましたが、殺菌剤と殺虫剤は必要ないと確信を持てたのは収穫でした。
それからは、ひたすら緑肥栽培で田んぼに有機物を貯め込み、微生物を増やすことに徹しました。農薬は初期の除草剤だけを使う今のスタイルの原型が出来上がりました。
菜の花緑肥栽培を続け、田んぼの地力も上がって来たので、2022年に再び除草剤を使わない取り組みを1枚の田んぼで行いました。
田植え直後、雑草もまだ芽吹いたばかり時に、田んぼの土をスライスして雑草を水に浮かせる除草器を自分で考案して自作しました。
除草剤を使わない今回の取り組みは、十分な成果を上げることが出来、農薬不使用のお米を継続栽培する目途が立ちました。
《菜の花米》は満開の菜の花のエネルギーをいっぱいに吸い込んだ米粒の宝箱です♪
生産者のこだわり

菜の花米は菜の花の養分で育ちます
菜の花米の田んぼは田植えの時に肥料をやりません。
秋に菜の花の種を撒き、春に咲いた菜の花を田植えの前に田んぼに鋤き込み緑肥と言う肥料にします。
気温の上昇とともに、微生物がこれを分解してくれて生育の中期頃に一番肥料効果が現れる「への字稲作」という作り方です。人間で言えば中学生から高校生の一番お腹が減る時期に腹一杯ご飯を食わせ、身体の基礎をしっかり作るような事です。
また、への字の山と重ねる様に、田植えからちょうど1月経った頃に追肥をします。この追肥は、なたねの油粕と米糠で作った自家製のぼかし肥料です。
ぼかし肥料ってなに? と思われた方もいらっしゃるかも知れません。実は米糠や油粕などの有機肥料からは、作物は直接栄養を取り込むことが出来ません。有機質を植物が吸える無機質に分解してくれるのが乳酸菌や麹菌、納豆菌や酵母菌などの微生物たちなのです。
ぼかし肥料は米糠などの有機物を微生物の力で予め分解発酵した肥料なので植物がすぐに吸収出来て速効性があります。また、ぼかしの語源となった、肥料効果を『ぼやかし(マイルドにし)』てあるので肥料当たりする事もありません。
自家製ですので自分で好きな様に材料を配合できます。お茶カス、コーヒー豆カス、入浴剤として使用した後の米糠、卵の殻もコーヒーミルで砕いて入れました。去年収穫して、未熟で食用にならなかったくず米も、ぼかしの材料にして田んぼに循環しています。有機物の多様性が微生物の多様性に繋がると思うからです。
購入資材も有りますが、多くは身近な資材や家庭から出るゴミを循環しているので、ゴミの削減やサスティナブルな農業に少しは役立っているかと思います。
菜の花米は化学肥料に頼らず、微生物の力を思いっきり借りて稲の栄養にしています。

海のミネラル《にがり》と森のエキス 木酢液《キクノール》が美味しさを加速します
菜の花米の田んぼでは初夏の頃に《にがり》と木酢液《キクノール》を用水に垂らせて田んぼに流し込みます。
にがりはお豆腐を固めるのによく使いますが、舐めると飛び上がるくらい苦くしょっぱいです。
にがりの主成分はマグネシウムで、農業の世界では『苦土』と言い、味を良くする肥料として知られています。それもそのはず、マグネシウムは葉緑素を作る原料なので、光合成が盛んになり美味しくなるわけです。
菜の花米の田んぼではマグネシウムを化学合成した苦土肥料ではなく、海水から食塩を取り出した残りのニガリを薄めて垂らしています。ニガリにはマグネシウム以外にも微量元素が多く含まれ、これが稲を元気にしてくれます。
太古の昔、海の中で生命体が誕生しました。そして、細胞の中に海を閉じ込める事が出来るようになって、陸に上がる生物が現れたと言われています。生命の起源は海にあります。
ニガリとセットでタンニン鉄も流し込みます。タンニン鉄は柿渋のタンニンに鉄を反応(キレート化)させた自家製の液で、鉄が稲の根張りを良くしマグネシウムとともに葉緑素の生成を促進します。
木酢液は炭焼きの副産物、200以上の有機酸やミネラルといった植物に有用な成分を豊富に含んでいます。強酸性で、濃度が濃いと殺菌作用がありますが、濃度を薄めれば逆に微生物のエサになって菌の活性が高まり、有機物の分解が促進され稲の栄養吸収を助けます。
木酢液は以前から使っていましたが、発がん性物質が含まれる可能性がある事を知り、以降は使うのを辞めていました。
しかし、YouTubeのカーメン君ガーデンチャンネルという動画で、㈲木紅木さんのキクノールという木酢液の存在を知り、その安全性に配慮され、じっくり寝かせて丁寧に作られた木酢液に魅了され、価格は今まで使っていたものより4倍以上しますが、使ってみたいと思いました。
キクノールの有用な成分は500種類もあるとのことで菌が活気づき、稲が元気に育っていくのを実感しています。

株と株の間隔を広く取り、お日様と風に味方してもらって病気知らず
慣行と言われる普通の栽培方法では、1坪あたり60株〜70株程、1株あたり5〜6本植えますが、菜の花米の田んぼでは、1坪あたり40株、1株あたり2〜4本しか植えません。これは疎植栽培と言われます。
疎植とへの字は相性がよく、気温が上がり稲の栄養吸収が活発になる頃に一気に茎を太くし、株を広げます。
疎植は1株あたりの面積が広いので稲がのびのびと株を広げられます。株元に光が射しやすく、風通しが良いので病気になりにくいのです。
密植は株元に光が射しにくく、風通しが悪いので、6月の梅雨の後7月8月も雨が多いと、日照不足と低温でイモチ病等の病気になりやすく、これを防ぐ為に農薬が必要になります。
疎植への字栽培は、気象条件の悪い年でも影響を受けにくい栽培方法なのです。

田んぼには役に立つ子も立たない子も、生きものがイッパイ!
農薬を使う田んぼでは、田植えの後に1度だけ除草剤を使用しますが、それ以外の農薬は使いません。
殺虫剤、殺菌剤を使わないので、菜の花米の田んぼの中には役に立つ子もたたない子も含めて小動物がたくさん居てにぎやかです。
田植え直後には野生のカモが泳ぎに来ます。
豊年エビは名前からして縁起がいいです。この子は上からでは分からないけど横から見ると背泳ぎしている不思議な子です。シルエットはバルタン星人みたい。
亀くんは芸術家、地上絵を描いて愉しませてくれます。ついでに稲の根を切るザリガニとかも喰ってくれます。
赤とんぼ、学名はアキアカネといいますが、梅雨時分にヤゴが稲を登って来て、背中がぱっくり開いて中からアキアカネが頭から反り返る様に出て来ます。これが羽化です。羽化したては真っ白でまるで妖精のようです。
羽化しても羽根を広げて乾くまで飛べないので抜け殻のヤゴに掴まって羽根が乾くのを待ち、徐々に黄褐色に変わります。
空には絶好のエサ場を逃すまいとツバメがたくさん舞っています。可愛らしいツバメがこの時ほど憎くらしく思えるときはありません。自然界は冷酷なんだと改めて実感します。
産まれてすぐのアキアカネは黄褐色なので赤とんぼと気付かない人が多い様です。無事にツバメの目をかいくぐったアキアカネは、千メートル級の山に上がり、暑い夏を山で過ごしたあと、秋になると里に降りてきて、その頃には真っ赤になっています。
稲にとっての害虫はなんと言ってもカメムシ。穂が出たすぐはもみの中はまだミルク状ですが、これをカメムシが吸いに来ます。吸われたところは雑菌が付いて黒く変色します。これがカメムシによる斑点米で1,000粒に1粒程度なら米の検査で1等貰えますが、2粒3粒有ると2等に等級が下がってしまいます。つまり価格が下がります。
色彩選別機はコレを弾くのが主な目的のようですが、菜の花米は色選を通しません。でも農産物検査で1等が貰えているので、1,000粒に1粒程度で収まっています。
理由は、田んぼの応援団が超強力だからです。蜘蛛やカマキリやカエルくんが悪い虫をやっつけてくれるからです。それもこれも農薬を撒かないので益虫が死なないで元気に活躍してくれるのです。
もっとも、害虫とか益虫は人間の都合でそう呼ぶだけで、害虫は自分のことを害虫とは思っていないでしょう。
また餌になる害虫がいなければ、益虫も来ないでしょう。
害にも益にもならないただの虫も、生命の多様性を構成する生態系の重要な一員です。
害虫を排除するために薬を撒けば、益虫もただの虫も死んでしまい生態系に欠けができて不安定になります。
多種多様な生命活動が営まれている健全な生態系の中では、特定の虫や病気が大発生するというような事は起きない様です。
それが田んぼの自然な姿だと思います。生態系が安定していれば農薬を使わなくてもきれいなお米が採れますし、色彩選別機の出番も少なくなります。
私ができることは、カメムシが好む畦の草をこまめに草刈りして、稲が穂をつける頃にカメムシを田んぼから遠ざけることぐらいです。
詳細情報
メディア実績
雑誌「現代農業」2023年5月号で、自作の水田除草器《すいスラ》で水田除草する様子が紹介されました。
同じく「現代農業」8月号で、畦草を浮かせて刈るナイロンロープ草刈り機のアイディアが紹介されました。