40年の積み重ねで育てた、40品種以上の桃。
桃の皮まで使った自社加工のジェラートで、品種の違いを楽しめる。

(山梨県山梨市・ピーチ専科ヤマシタ様)

栽培に適作な山梨で、40品種以上の桃を栽培。

―ピーチ専科ヤマシタさんについて教えてください。

桃やぶどうの生産が盛んな山梨県峡東地区の6haの農園で、40品種以上の桃や柿の生産を行っています。農場は富士山が正面に見える南斜面で日当たりが良く水はけが良いため、果物には適作な場所です。以前は主に養蚕と稲作が行われていた地域でしたが、養蚕業の衰退とともに、約60年前から果物の生産が始まりました。ピーチ専科ヤマシタが果物づくりを始めたのもこの頃です。

―沢山の品種を育てることにはこだわりがあるのでしょうか。

苗木も含めると桃だけで50品種近く育てているのは非常に珍しいです。農協への出荷がメインの多くの農家は、農協の選果場に出荷できる20品種ほどの指定品種しか生産していません。私たちはインターネットが普及する前から個人向けの宅配を行っていて、桃については極めたいという思いがあります。

桃は毎年、全国で新しい品種が開発されています。違う地域で開発された品種でも、山梨の気候や土地で育てればもっと美味しく作れるかもしれない。そう考えて、地元山梨だけでなく、福島や長野といった産地の新品種を導入し、桃が収穫できるようになるまでの3~4年間栽培を試みています。

爽やかな青空の下で大切に栽培される桃

これまで導入したことのある品種は約80に上ります。カタログ上では良さそうな品種でも、実際に栽培してみると「それほどでもないな」という時もあります。一方で、世間の評判が良くないものでも、「すごく良いのにな」という場合もあります。前評判にかかわらず栽培技術ひとつで良くも悪くもなるので、できる限り自分で作って確かめるようにしています。

皮まで使ったジェラートなら、シーズンを越えて桃の品種を食べ比べができる。

―桃農家だったピーチ専科ヤマシタさんがジェラート生産を始めたきっかけは何だったのでしょうか。

13年前に桃農家直営のカフェを開店し、そのメニューとしてジェラートを作ったのがきっかけです。それまでも産直で桃を全国のお客様にお送りしていたのですが、どうしても送れない桃がありました。それは、「今食べたら一番美味しい桃」。完熟した柔らかくて汁が出る桃は、本当は一番美味しいのですが物流の関係で到着時には傷んでしまいます。ですから、そのような桃は破棄するか、出荷する場合でも市場に安い値段で出すしかありませんでした。一方で産直のお客様からは「桃が硬い」というクレームをいただくこともあり、ジレンマを感じていました。そこで、時間とお金をかけて山梨まで来てもらい、ここでしか食べられない美味しい生の桃と、その桃で作ったジェラートやパフェを味わってもらうことにしました。

連日観光客で賑わうカフェ

―ジェラートの特徴を教えてください

ピーチ専科ヤマシタのジェラートは、栽培品種の多さを活かして、桃の品種ごとの味の違いを楽しめるのが特徴です。私たちのジェラートは着色料・香料を使っていないので、桃がもともと持っている色や香りをそのままお楽しみいただけます。例えば糖度の高い品種であればとても甘いジェラートに、酸味の強い品種であればさわやかなジェラートに。「山根白桃」というピンク色の果汁の桃はピンク色のジェラートに、「黄金桃」という黄色い桃は黄色いジェラートになります。果肉の滑らかさの違いや繊維質の多少は、ジェラートの舌触りを変化させます。

ジェラートの魅力は、時期の違う品種の桃の食べ比べができることです。ピーチ専科ヤマシタでは毎年6月15日頃から9月いっぱいまで桃の収穫をしています。通常、10日ほどでひとつの品種は終わってしまうので、例えば6月の桃と8月の桃を同時に食べることはできません。しかしながらジェラートであれば、これらの品種を食べ比べることができます。皆さんが普段桃を食べるときに品種の違いを意識されることはあまりないと思いますが、同時に食べていただくと、その違いを実感いただけると思います。

桃農家手作り!!桃の食べ比べジェラート6個入

ジェラートを自社生産に切り替えたのは6年前のことです。自社生産にしたことによって、2つの大きなメリットがありました。1つ目は、最短で収穫当日に加工できるようになったことです。暑い日中に収穫した桃は柔らかくなってしまうため、桃の収穫は早朝にしかできません。朝収穫した桃は、新鮮なまま、最短でその日の夕方にはジェラートに。自社生産だからこそ、工場の予定ではなく桃の予定に合わせた加工ができるのです。

2つ目は、皮まで使ったジェラートを作れるようになったことです。桃は皮と果肉の間が一番香りが出やすくジェラートの特徴を際立たせやすいのですが、加工業者に委託する場合は通常、桃の皮を使ってもらうことができません。収穫途中に土に落ちて菌のついた桃が入っていたとしても、加工業者から判別することができないからです。この点、自社生産の場合には生産過程のトレーサビリティが可能なため、土に落ちた桃が混ざることが無く、農薬等の防除暦も把握した上で加工に回すことができます。

桃の美味しさを最大限に引き出すために、自社生産にこだわっています。

―おすすめの食べ方はございますか。

冷凍庫から取り出したままのカチカチな状態ではなく、人肌で温めて、練ってから食べてみてください。練ることで空気を入れ込むと、もとの状態とは全く違う、ジェラートショップで食べるようななめらかで口溶けの良いジェラートになります。ぜひお試しください。

桃を作り続けて40年。お客様に満足いただくために、積み重ねを続けていく。

―就農以来、農園に変化はありましたか。

私が就農したのは約40年前になります。就農当時は1.3haほどの面積でしたが、産直を始めてお客様の評判が広がるにつれて桃を増やさなければならなくなり、規模の拡大を続けてきました。当初は電話とFAXを利用して注文を受けており物流も完全ではありませんでしたが、現在では食べチョクをはじめとしたネット直販によって、より沢山のお客様に少しでも早く商品をお届けできるようになりました。

山梨県峡東地区は果実に適作な産地ではありますが、農家の高齢化によって、自分の体力が追いつかない分の農地をあきらめる人が増えつつあります。私たちはそういった農地を借りて面積を増やしてきましたが、特に傾斜地では畑が昔の山に返りつつあります。私たちの存在も、徐々に希少になりつつあると感じています。

―今後、取り組んでいきたいことはございますか。

桃の生産に特化して何年も経ちますが、終わりはありません。どうしたら美味しいもの、お客様に満足いただけるものを100%つくることができるのか。それを絶えず追求するからこそ、お客様にもついてきていただけるのだと思っています。その年の反省を活かして、来年、もっと良い桃をつくるために何をしようか、と考えることの連続です。最近では気候の変化によりこれまで以上に難しい局面も増えていますが、これからも積み重ねを続けていきたいです。

まだまだ暑さの残る日々。ひんやり甘いジェラートでくつろぎのひとときを楽しんで。

―最後に、皆さまにメッセージがあれば教えてください。

私たちは自然相手の仕事です。自然の変化を見ながら桃を作って、その桃を通じてお客様に喜んでいただきたいと思っています。
疲れたときは、ぜひご家族でジェラートを食べて、ゆっくりリフレッシュしてくださいね。